夢を操作する技術と眠りに潜む新たな情報社会の兆し

「夢の中に情報を送り込む技術があるらしい」

そんな噂が、いまiACITYの情報統制エリアで密かに広がっている。「眠っている間に勉強ができる」「夢の中に広告が流れる」といった奇妙な体験談がSNSで拡散され、真偽を問う声が高まる中、ある都市研究機関の存在が浮かび上がった。

実際に夢へ情報を“書き込む”ことなどできるのか？意識とテクノロジーの境界線をめぐる、眠りの実験最前線に迫る。

脳に届く夢のメッセージ——SNS発の噂は本当か？

この話題が最初に広まったのは、匿名フォーラムでの一つの投稿だった。「夢の中で見知らぬ商品名を聞いた。目覚めた後にそれを検索したら、実在する新製品だった」。以降、同様の体験談が次々と投稿され、「夢広告（ドリーム・アド）」というワードが注目を集めるようになった。

実験的なマーケティングか、都市伝説か。だが、市民たちの間ではこの現象の背後に情報統制中枢機関と繋がりのある研究機関「ノクターナル・ラボ」が関与しているという説が濃厚になっていく。ノクターナル・ラボはかつて、睡眠中の脳波を制御する医療研究を行っていたとされ、その技術が転用されたのではないかという声もある。

「目覚めたときに、自分の意思とは無関係な記憶が脳に残っていた」

そんな証言を裏付けるように、現在、一部の大学研究者が「外部刺激による記憶誘導の可能性」を公表している。もはやこの現象は、ただの噂とは言い切れなくなってきているのだ。

実験施設“ノクターナル・ラボ”と睡眠技術の現在地

ノクターナル・ラボは、iACITY郊外のアクセス制限区域「クォーターデルタ」の外れに位置する研究施設で、その存在は長らく公には語られてこなかった。だが近年、一部の市民データベースに「神経誘導型睡眠補助技術の臨床試験」という登録情報が確認され、にわかにその名が注目されるようになった。

この施設では、マナの微弱波動と脳波の干渉性を利用し、睡眠中の意識状態をコントロールする技術が研究されている。被験者は特製のヘッドギア型デバイスを装着し、特定の音波とマナ信号を同時に受信。その状態で「情報パルス」と呼ばれるデータが断続的に送られる。

研究チームによると、この情報パルスは「夢に近い状態の脳に干渉し、記憶形成の前段階にアクセスする」仕組みで、映像や言葉の断片が夢として認識されることがあるという。現時点ではまだ臨床段階だが、実際に被験者が翌朝、パルスに含まれていた単語やイメージを口にした例も報告されている。

ノクターナル・ラボの技術は、眠っている脳をただの休息状態ではなく、「情報の受信装置」と捉えることで、夢という無意識の領域に新たな役割を与えようとしているのだ。

記憶は植え付けられるのか？成功例と危うい副作用

ノクターナル・ラボの実験で注目されているのは、情報が夢として現れたあとに、それが記憶として“残る”かどうかという点だ。研究チームによれば、夢の中で体験した内容を、目覚めた後に「自分の知識」として語った被験者が複数存在する。たとえば、実際には学習していない単語を正確に使用したり、記憶にない風景を描写したりといった事例だ。

特に効果が顕著だったのは、言語・感情・シンボル的イメージの分野。単純なデータよりも、「意味を持つ情報」のほうが夢の中に深く入り込み、記憶と結びつきやすいという。また、体験した記憶と混ざることで「実際にはなかった出来事を、あたかも自分が体験したように語る」ケースもあった。

一方で、こうした実験には危うい副作用も報告されている。夢と現実の境界が曖昧になり、「本当に起きた出来事か、夢だったのかが分からない」と訴える被験者。中には、強い感情を伴う夢の影響で不安障害や記憶混濁を起こした例もあるという。

情報を夢に書き込むことは可能かもしれない。だが、それは記憶の改ざんにも等しく、個人のアイデンティティすら揺るがす危険性をはらんでいる。技術の進歩は、便利さと同時に、深い倫理的ジレンマももたらすのだ。

倫理の境界線——夢の所有権と意識の自由

もし夢が「情報の受け皿」として利用される時代が来るとしたら、その夢は誰のものなのか？という問いが避けられなくなる。現実の広告やメディアには規制があるが、夢の中には明確な“表現の自由”も“プライバシー保護”も存在しない。無意識下に介入されることは、本人の気づかないうちに思想や感情が書き換えられる可能性すら秘めている。

市民権擁護団体の中には、「夢の自由は最後の精神的聖域だ」として、技術開発の停止や法整備を求める動きも出ている。一方で、医療や教育、精神治療の分野では、夢を通じた記憶形成やトラウマ治療に期待する声も強い。いま、iACITYでは“夢を操作する技術”をめぐる倫理論争が静かに高まりつつある。

そして重要なのは、この技術の背後には、マナの流動や深層脳波といったまだ解明されていない要素が関わっている点だ。人の意識は、本当に個人のものでいられるのか？無意識すら他者に開かれた時、私たちはどこまで“自分”であり続けられるのか？

夢はこれまで、ただの休息であり、時にインスピレーションの源だった。だが今、その夢が制御され、再生され、改ざんされる未来が現実味を帯びてきている。iACITYは静かに、新たな意識の時代へと足を踏み入れているのかもしれない。