あの頃の私は、どうかしてたんだと思う。若かったし、どうしていいかわからなかった。
妊娠がわかったとき、頭が真っ白になった。誰にも相談できなくて、時間だけが過ぎていった。
産んだあとのことなんて考えられなかった。結婚も、育てることも、何もかもが怖かった。
私は、駅のコインロッカーに……
(ごめんね、本当に、ごめんなさい……)
あの日から、私はあのロッカーの前を通らないようにしていた。
見たくなかった。思い出したくなかった。
でも、年月が経つうちに、少しずつ記憶は薄れていった。新しい仕事、新しい環境、いろんなことで頭がいっぱいだった。
いつのまにか、私はまた、あのロッカーの前を何の気なしに通るようになっていた。
ある日、ロッカーの前で小さな男の子が泣いていた。親とはぐれて迷子にでもなったかな?
そう思って、私は近づいた。
「どうしたの?」
でも、男の子はただ泣き続けて、顔をあげなかった。
私はしゃがんで、もう一度やさしく言った。
「大丈夫?お母さんは?」
そのとき、男の子がピタッと泣き止んだ。
そして、ゆっくりと私の顔を見上げて、こう言った。
「お前だ」
住民の声